11月7日

私が原発を止めた理由』(旬報社)の著者、2014年関西電力大飯原発の運転差し止め判決をだされた、当時の福井地裁裁判長樋口英明さんに
クレヨンハウス「朝の教室」で、ご講演いただいたのは10月23日でした。
静かな中に、なんとしても原発を止める、という熱い思いをひしひしと感じる、
素晴らしいお話でした。
樋口さんは退官後、おおかたの裁判官はご自分がかかわった事件については論評しないという伝統を破られて、原発を止めることにご自分の「残りの人生をかける」とおっしゃっています。

その樋口さんから、11月4日原発差止め仮処分が広島地裁で却下されたことについて、
以下のようなメールを拝受いたしました。
本当に無念です。
以下、樋口さんにご許可いただき、ご講演に参加されたかたがたをはじめ、
少しでも多くの方々と、この時代の、裁判のありかたについて
ご一緒に考える時空をシェアしたいと、ご紹介いたします。

樋口英明さんのメール
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私が実質的に関与した初めての原発差止め仮処分は、11月4日広島地裁で却下されました。

全ての争点について四国電力と主張を闘わせた結果、四国電力は最後の方は反論できずに黙ってしまいました(四国電力は負けを覚悟したはずです)。
そこで、私はよほど悪質な裁判官でない限り勝つだろうと思っていたのですが、残念ながらこのような結果となりました。

四国電力は「マグニチュード9の南海トラフ地震が伊方原発直下で起きたとしても、
伊方原発の敷地には181ガルしか到来しない」という非常識な地震動算定を行っていました。

マグニチュード9の東北地方太平洋沖地震では震央(震源の真上の地表面または海面をいいます)から180キロメートル離れた福島第一原発の解放基盤表面(固い岩盤)において675ガルの地震動が到来しました。
四国電力は、マグニチュード9の南海トラフ地震が伊方原発直下で起きても伊方原発敷地の解放基盤表面(固い岩盤)には181ガル(震度5弱相当)しか到来しないとしました。ちなみに、震度5弱とは、棚から物が落ちることがある、希に窓ガラスが割れて落ちることがあるという程度の揺れです。
なお、181ガルに合理性がない場合には基準地震動(650ガル)の合理性が失われることについては四国電力も争っていませんでした。

広島地裁は、住民側の立証責任の軽減を図った伊方最高裁判決を適用せず、具体的危険性の立証責任は全て住民側にあるとしました。
南海トラフ地震181ガル問題についても、震源特性・伝播特性・増幅特性等に関する修正補正を加えた後でなければ、
伊方原発の岩盤での181ガルと福島第一原発の岩盤での675ガルとを比較して一概に181ガルを不合理だとすることはできないとしました。
そして住民側がその補正をせずに181ガルと675ガルを比べているので具体的危険性の立証は不十分だとしたのです。
しかしこのようなことは四国電力さえも主張していなかったので実に奇妙な判断といえます。

住民側は「震源特性・伝播特性・増幅特性等は正確に見極めることはできないので、そもそも最大地震動(基準地震動)は予知予測できない」と主張していたのです。
そのような主張をしていた住民側に裁判所は無理難題を押しつけたのです。
更に、差止めが認められるためには、住民側において、近々基準地震動650ガルを超える地震が発生することを立証しなければならないとしました。
およそ地震学者にもできない無理難題を住民側に課しました。

以上が今回の決定のあらましです。とても承服できる内容ではないので、広島高等裁判所に是正を求めることにしました。
後輩が裁判官としての矜持も人間としての最低限の公平感も持ち合わせていないのを見るのはたいへんつらいのですが、
三権の中で頼ることができるのは裁判所しかありません。希望を失わずに頑張っていきたいと思っております。
引き続き見守ってくださいますようよろしくお願い致します。 
樋口英明

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2014年の大飯原発差し止め判決で、
わたしたちに「希望を失わない」ことを伝えてくださった樋口さんが
「希望を失わず」と記されていることを確かに受け止めて、わたしたちもいま。

次回の「朝の教室」は11月20日。 講師は東京新聞の片山夏子さん。
原発の現場で働く作業員のかたがたの声になりにくい声を しっかり読者に届けてくださっています。



※11月20日(土)「朝の教室」講師は片山夏子さん。
オンライン(zoom)で視聴いただけます。下記よりチケットをお申込みください。

かたやま・なつこ  /  化粧品会社の営業、「ニート」、埼玉新聞記者を経て現職に。2011年8月から、おもに東京電力福島第一原発で働く作業員を取材した連載が、2020年「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」大賞受賞。『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』(朝日新聞出版)として発売し、2021年「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」受賞。

落合恵子の『明るい覚悟』

Living at the same time こんな時代だからこそ。