あの「アキニレ」についてのご報告

「あのアキニレは、どうするのですか?」

「吉祥寺に引っ越すのですか? アキニレは」

表参道をあとにするとき、わたしたちクレヨンハウスのシンボルツリーでもあったアキニレについて、 多くのかたがたに訊かれた。

遠方からかけつけてくださったかた、飛行機で飛んできてくださったかたもいたし、電話やメールやファックスも。

涙を浮かべて訊かれたかたもいた。


姉崎一馬さんの写真絵本『ハルニレ』(福音館書店 1981年初版)が、個人的にも大好きで、「クレヨンハウスにも居てほしい」と埼玉の山奥から業者さんに運んできてもらったものだ。

1メートル50センチほどの、まだまだ小さな子だった。

そして……。姉崎さんがクレヨンハウスに来られてとき、「ハルニレです」と紹介すると……。

「えーと」

困惑気味の、姉崎さん。

えっ? どうしたんだ? 

「えーと、これはアキニレです」

春のニレの樹はハルニレで、秋のそれはアキニレか? 夏だってアキニレ、冬だってアキニレでは?

違うのだ。種類が違うのだと知ったからと言って、根づこうと頑張ってくれているそれをいまさら引っこ抜くわけにも、別れるわけにもいかない。

そして、46年。

当然、吉祥寺に運ぼう、なんとかアキニレの場を確保しようと、いろいろ相談を重ねていたが、

「お気の毒ですが、あの大きさ、あの高さの樹をトラックにのせて、都内の道路を運ぶことはできません。そういう決まりです」

うそ、だろー。決まりは改善するためにあるんだろー。

「それに移植の季節でもありません」

あれこれ決めなければならない移転前の日々。悩んだ、苦しんだ、悲しんだ、落ち込んだ。

40数年前に毎日曜日に開いていた「絵本日曜塾」に参加してくださっていた女性、樹木に詳しい門脇さんともアキニレの前でアキニレの話をして、ハルニレの姉崎さんと、なんとスマホをつないでくれた。

ご無沙汰しています、姉崎さん。

姉崎さん、ニレの樹もそうだけれど、あなたにあこがれた若い女性スタッフがクレヨンハウスにどれほどいたことか! みんなそれなりに年を重ねて、でも元気にくらしていますよ等々、

電話での話。アキニレについても教えていただいて……。

結論は種子をとってまくのがいいとのこと。

それで、次々に引っ越し荷物を積んだトラックが出ていく横で、枝を切り、種子を振り落とし、姉崎さんにあこがれた当時のスタッフの家や、門脇さんの家(植物学者さんにご相談いただいた)、むろんわたしのところにも種子をいただいた。

種子をとった10メートルを超えたアキニレ本体は、茨城県稲敷でホースセラピーをされている動物医の女性が

「クレヨンハウスから移植されたアキニレ」という表示付きで、園庭に植えてくださることに。

本当によかった。ご心配、ありがとうございます。


続きは明日!

落合恵子の『明るい覚悟』

Living at the same time こんな時代だからこそ。