本の見返しに並んだ2枚の顔写真。
いずれもわたしである。
2023年。抗がん剤の点滴で脱毛したわたしと、25年、現在の写真だ。
露悪的に感じるひとがいるかもしれないが、意図はまったく違う。
女性の患者さんは特に、脱毛を気にし、不安がるひとが少なくない。入院中もそうだった。
本文の中にも書いたが、「髪は女のいのち」などとわたしは思わないし、
2025年どころか、24年の春過ぎにはすでに、もふもふと髪は生えてきていた。
だから、「大丈夫! 髪は必ず生えてくる!」と、
気にしている「あなた」に呼びかけたかったのだ。
長い間、がんであることは、ごく少数のひとにしか告げなかった。
わたし自身、かつては「告げられる」ほうのひとりだった。自分はがんだと告げたそのひとに、告げられたわたしは何も言えずに、かたまっていた。
告げる方も辛いかもしれないが、告げられる方も違った意味で辛い。
だから黙っていよう、と。
さらに、黙っていた最大理由は、ひとりで考えたかったからだ。
「これまで」と「いま」と「これから」を。
その場、その場で、反射的に対応してきたかもしれない過去の自分の姿が、靄の向こうにゆらゆらと浮かんで……。
今回だけは過不足なくちゃんと考え、ちゃんと学び、答えを出そうと決意した。
ほかでもない、そう、わたしの人生なのだから。
がんであることは、わたしの一部ではあるけれど、わたしのすべて、ではない。
『がんと生ききる……悲観にも楽観にも傾かず』(朝日新聞出版)、
12月5日、発売。
本書の刊行記念の講演会は、決まったら、この頁でもお知らせします。
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