この12月5日、クレヨンハウスは創立(なんだかエラソー。ま、オープンして)50年目を迎えた。吉祥寺で迎える4回目のクリスマス。
50年。よく続いたよなあ、と苦笑するわたしがいる。苦笑の内訳はさまざまだが、わたしもよくやったと、ちょっと褒めてやりたい。そして、スタッフもまた。
学校を卒業して22歳から放送局に勤務していた若い女。仕事は面白かったが、局のなれなれしい空気にどうしても馴染めずに、仕事の終わりに通っていたのが銀座の洋書店。そのうち、どうしても自分でもやりたくなった。
絵本や詩集、童話などの専門書店だ。本は1冊売れて、2割(も無い)業界だ。続けられた理由はやはり好きだから。
好きだから、をなくしたら、どの仕事もやる理由はない。
50年目を迎えたちょうどその日、新刊の『がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず』(朝日新聞出版)が書店に並んだ。
「この本だけは、クレヨンハウスで買わなくては」。遠くから来てくださった、あなた。ありがとう!
「今、買ってきましたよー」。声をかけてくださったあなた。
1階で、この本の取材を受けていたわたしに、声をかけてくれたひと。
「ちょっとショックでーす」。そんな声もあった。
理由は植物のきれいな表紙を開いて、見開きに並んだわたしのモノクローム写真。
1枚は、3年前のちょうど今頃の写真。がんの治療の結果、すっかり脱毛したわたしのそれだ。その隣のもう1枚は、今年2025年の秋のわたし、これもモノクローム写真。
脱毛したそれは自撮りしたもので、敢えて載せよう、と主張したのはわたし自身だった。
「髪なんて、また生えてくるさ」、と読者、とくに抗がん剤などの治療で、髪を失った人たちに伝えたかった。ごっそりと髪が抜けたことを悲しみ、苦しむひとへの、写真は、わたしからのメッセージだ。
本の中でも触れているが、目覚めた朝、ピローケースやシーツの上にごっそりと抜け落ちた髪を見つける。シャワーを浴びたとき、排水溝にたまった髪の束を拾い集めて捨てるのも、正直、あまり気持ちのいいものではなかった。が、何より気になったのは、脱毛をおそれる同じ病棟の女性たちの嘆きの声だった。
年代によっては感じ方は違うかもしれない。気持ちはわかるけれど、髪は生えてくるんだ、と伝えたくて……。
まるで使用前と使用後のように、2枚の写真を並べたのだった。それが、見開きの2枚の写真である。個人的には、本文など読まなくても、この写真を見比べてくれたら、それで充分とさえ思っている。
先日も、講演で訪れたある町。
講演後、周囲に誰もいないことを確めてから、小声で「わたしもがんなんです」と言ったそれぞれの女性たち。セルフヘルプのグループが何組もできるほどの人数がそこに居ながら、不安を分かち合うことなく、苦悩を独り抱える女性たち。
脱毛したわたしの写真は、そんな彼女たち(彼もいるだろうが)への、大丈夫、髪は必ず生えてくる! というわたしからのメッセージだ。
この50年の間、差別や虐待や性暴力にあった被害者に向けて「IT'S NOT YOUR FAULT」(あなたが悪いわけではない)と言ってきた、80歳になったわたしからのメッセージが、いま、ここに!
自撮りなんてはじめてやった。言葉で説明するよりも、わかり易いだろう、と考えて。
Don't worry! Your hair grows back!
<速報!> 落合恵子 東京・大阪での講演が決まりました。
新刊「がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず」がメインテーマとなります。
◆東京 2026年1月10日14時~
お問合せ:クレヨンハウス東京店1F TEL 0422-27-1447(11~19時)
◆大阪 2026年1月31日14時~
お問合せ:クレヨンハウス大阪店 TEL 06-6330-8071(11~19時)
0コメント